恒川光太郎

攻略対象書籍は以下。

夜市』★★★★
雷の季節の終わりに』★★★★☆
秋の牢獄』★★★★
草祭』★★★★☆
南の子供が夜いくところ』★★★★☆
竜が最後に帰る場所』★★★★☆
金色の獣、彼方に向かう』★★★★☆
『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』
金色機械』★★★★
『スタープレイヤー』
『ヘブンメイカー スタープレイヤーⅡ』
無貌の神』★★★★☆


にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

スポンサーサイト

無貌の神

4041052696無貌の神
恒川 光太郎
KADOKAWA 2017-01-28

by G-Tools

貌のない神は、喰う――。赤い橋の向こう、世界から見捨てられたような禁断の地にさまよいこんだ私。かの地の中心には、顔のない神が坐して、輝きを放っていた。万物を癒やす力を持つその神には、代々受け継がれている秘伝の奥義があった。そのことを知った私がとった行動とは?(「無貌の神」)デビュー作『夜市』を彷彿とさせる表題作ほか、生きることにつきまとうやるせなさをあぶりだしながら、時代も国籍もジャンルも縦横無尽に飛びこえ、自由闊達、神話的な語りの境地をみせる傑作ブラックファンタジー全6作!


ブラックなファンタジーが6編入った短編集になっている。表題作「無貌の神」は、都市を焼き尽くす炎から逃れ、寂れた集落に迷い込んだ少年クスノキの話。その村には仕事もなく、人々は荒れた畑に埋まっている芋を掘って勝手に食べたり、周囲の山から食べられる物を採って来て暮らしている。

クスノキはアンナという女の家に住むようになり、この場所で生きるために必要な事を教えられた。集落には古寺があり、中には顔の無い神が座していた。顔の無い神は、百万の色彩を放つ光の衣を纏い、傷を癒す力を持っていた。だが、神の傍で寝ていると、アンナに凄まじい勢いで引き離された。

ある日、深手を負った者が古寺に行くのが見えたので、傷が癒えるところを見ようと思い、覗きに行った。すると、傷が癒されるどころか、男は神に喰われて居なくなってしまった。クスノキは、神が傷を癒すだけでなく、近づいた者を食う恐ろしい存在だと知る。

ある日、アンナはクスノキを連れて千尋の谷へ連れて行く。底の見えない谷に赤い橋がかかり、遥か遠くの向こう岸へと続いていた。アンナは、橋を渡って元の世界へ帰るように言う。アンナは一緒に行けないと言うので、クスノキは渡らなかった。

よく晴れた秋の日、アンナが小太刀を持って古寺に向かうのが見えたので、つけて行くと、顔の無い神と戦い始めた。アンナが神に勝つと、神は餅のような塊になった。とても美味しそうなのだが、アンナに食うなと言われてしまう。他の村人も現れて食い始めたのに、何で自分は駄目なのか。

戻れなくなるから駄目だというアンナの静止を振り切って神の体を食べるのだが、慈愛の味がした。その後、アンナが変わり始め、神を倒した者が、次の神になる事を理解する。

一人暮らしになったクスノキのところに、鈴音という女が迷い込んで来る。鈴音が赤い橋の所まで案内してくれというので、連れて行ったところ、自分には橋が見えなかった。見えない赤い橋を鈴音が渡って行くが、自分はついて行く事が出来なかった。


「青天狗の乱」は、伊豆の島々が流刑地だった頃の話で、流刑になった者へ見届物を渡す仕事をしている男の視点で語られるのだが、渡す物の中に化け物仮面が入っていた。金品などは下級役人が勝手な理由をつけて取り上げてしまうのだが、気味の悪い仮面は、届けるべき相手に渡される。

鷺照という男は、居酒屋をしていたが、居付いて仕事もしない悪い女に騙され、流罪となったらしい。二階で勝手に賭場が開かれ、尊王攘夷の話もしていたらしくて、それが全て自分のせいにされてしまう。仮面を受け取った男は、そのうち行方不明となり、死んだものとして忘れられた。

この島には、流刑者を虐待したり、殺したりする栗太郎という極悪人がいた。こいつは島を管理する下級役人の馬鹿息子だったのだが、明治新政府となり、流刑地も北海道に移される中、本土に戻れるはずの流刑人を勝手に殺そうとしていた。そこへ、青天狗が出て来て、仲間もろとも栗太郎を殺してしまう。

青天狗は捕まらず、その後も下級役人やその血縁を殺していく。この島を管理、支配していた一族の当主が惨殺されてからは、役人の勢いも削がれてしまうが、それでも青天狗の攻撃は収まらず、今まで好き放題していた奴らが、少しずつ殺されて行く。

明治になってから何年も過ぎて、見届物配達をしていた男が、化け物の仮面を渡した鷺照によく似た男を見かけるのだが、相手は自分の事を知らない、人違いだと言って去ってしまった。かつて男が経営していた居酒屋が本当にあるのか確かめに行った事があるのだが、そこは火事で燃えてしまっていた。結局、真相が闇の中で終わるのが気持ち悪い。


「死神と旅する女」は、フジという12歳の少女が学校から帰る途中で、辻斬りと出会ってしまう。江戸時代ならともかく、すでに大正時代となっているというのに。相手は親子のようにも見えたが、少年のほうが刀で襲い掛かって来る。咄嗟に避けたところ、相手の刀は樹の幹に刺さってしまった。

もう一人の男がフジに小太刀を渡し、少年を殺せたら命拾いすると言われる。思わず相手を倒したところ、自分が時影と名乗る男の弟子にされてしまった。フジはつぎはぎのもんぺ姿から、いつの間にか白い刺繍のブラウスとスカートになって、汽車に乗っていた。

男から二百年も人の血を吸い続けてきた妖刀、百舌真を渡される。村に帰りたいと願うが、指示された相手を七十七人殺すまでは、戻れないと言われる。ほとんどは成人男性だったが、一度だけ女性を斬れと言われた。斬れずに時影の元に戻り、女が七十七人に含まれているのか尋ねた。七十七人を斬り終えた後、フジは村に戻されたが、それはフジがいなくなってから三日後の事だった。

何のために七十七人も斬ったのか、斬る事が出来なかった女は誰だったのか。何も分からないまま大人になり、恋に落ちるが、その相手とは結ばれなかった。自分の前に再び時影が現れた時、自分が果たした役割を初めて理解する。


「十二月の悪魔」は、記憶が曖昧になった老人が、後ろからついてくる影男に怯えるが、自分の暮らしている町が悪魔の造ったものだと思って逃げ出す話。イヤミスほどではないけど、読後感の悪い、気持ち悪い話だった。

「廃墟団地の風人」は、風が廃墟になった団地に落ちて、空に戻れなくなってしまう。自分の姿が水面に映らず、歩いても足跡が出来ないので、自分が風だと認識した。自分のような存在を、風人と名づけ、空に戻れる日を待つが、そのための方法は分からなかった。

ある日、少年が廃墟にやってきて、触れてしまった事で、相手が自分を認識出来るようになる。裕也と仲良くなった風は、サブロウと名前をつけられ、一緒に遊ぶようになる。

次に廃墟にやってきたのは、高杉エアという女性だった。彼女も元は風で、今は人間になっているという。地上にある様々なものに囚われて重くなってしまった風は、二度と空に戻れず、やがて消滅するらしい。消えたくなければ、誰かの中に入って体を乗っ取るしかないという。誰の中に入るか迷うが、裕也を助けるために最低最悪のクズ野郎の中に入らないといけないなんて……。

「カイムルとラートリー」は、崑崙虎と呼ばれる神獣の子の話。はげたか岩の向こうは奴らの領域で、奴らの臭いがきつくなってきたから移動しないといけないと母から言われる。ある日、奴らがやってきて、子供は捕えられる。

売られた先は、どこかの族長の家で、カイムルと名をつけられる。やがてカイムルは人間の言葉を覚えるが、その事で気味悪がられ、占いで災いが起こると出たため、他所に連れて行かれる。連れて行かれたのは、皇帝のところだった。人の言葉を理解する獣を気に入った皇帝は、カイムルを第三皇女ラートリーに与える。

ラートリーは千里眼を持っているが、脚が不自由である。最初は檻に入れられているだけのカイムルだったが、皇女の命令で、色々な知識を教えられる。そのうち、自由になりたいか聞かれ、一緒に帝都から脱出する事になる。

やがて、滅ぼされた国の城に辿り着くが、そこには女しか住んでいなかった。時々やって来る人食い鬼に、男は殺されてしまったのである。女を食いに現れたので、カイムルとラートリーが追跡して鬼を殺した。

静かな午後、ラートリーが何かに怯え、一緒にいてくれと言う。ラートリーに身を寄せ目を瞑ると、カイムルにも、反乱軍が帝都を攻め落とし、皇帝の一族を処刑する場面が見えた。

金色機械

金色機械金色機械
(2013/10/09)
恒川 光太郎

商品詳細を見る

触れるだけで相手の命を奪う恐ろしい手を持って生まれてきた少女、自分を殺そうとする父から逃げ、山賊に拾われた男、幼き日に犯した罪を贖おうとするかのように必死に悪を糺す同心、人々の哀しい運命が、謎の存在・金色様を介して交錯する。人にとって善とは何か、悪とは何か。


遊廓の支配者となった熊悟朗の元に遥香と名乗る女が訪れる場面から物語が始まる。熊悟朗は相手の殺気を視る能力で生き残り、のし上がって来た。遥香は手を触れるだけで生き物を殺す呪われた力を持つ。どちらも超常的な力を有しているが、さらに題名にもなっている謎の金色様が絡んでくる。

時は江戸時代だが、金色様が守っていた一族が今川義元に攻められる戦国時代まで遡ったりもする。金色様はこの世界の外側から来た存在で、江戸時代だと無敵のチート性能である。物語は時系列を行き来しつつ、熊悟朗や遥香の人生を辿りながら、冒頭のシーンへと繋がって行く。

今までの不思議系ホラーとは違った作品だが、最後で物語が上手く繋がるのは素晴らしい。かなり分厚いので苦戦するかと思ったが、一気に読めた。ちょっとSF要素混ざったファンタジーというのが良い感じである。ネタバレすると面白くなくなるので、内容についてはあまり触れない方向で。


にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

金色の獣、彼方に向かう

金色の獣、彼方に向かう金色の獣、彼方に向かう
(2011/11/16)
恒川 光太郎

商品詳細を見る

樹海に抱かれた村で暮らす大輝は、ある日、金色の毛をした不思議な生き物と出合う。ルークと名付けて飼い始めるが、次第に大輝の体に異変が起きてきて……。「樹海」と「サンカ」をテーマに、鬼才が読者を神々の世界に誘う、表題作を含む4編を収録。


不条理な運命に翻弄されるような話が多いのだが、上手く出来た幻想的な話が多いので不快感は残らない。表題作「金色の獣、彼方に向かう」の他「異神千夜」、「風天孔参り」、「森の神、夢に還る」が収録されている。

「異神千夜」は蒙古来襲の時代、宋人に見出されて育てられた対馬の少年が、朝鮮で蒙古軍の奴隷となり、日本に潜入させられる話。一緒に日本に潜入する仲間の一人が、蒙古に滅ぼされた金の巫術師で、妖しげな能力で仲間を支配して行く。ボーグ・クイーンに統制されて自我を失っているような感じが堪らない。

「風天孔参り」は、風天孔という超自然現象を求めて彷徨う集団と関わってしまった女性の物語だが、その女性が宿泊する事になった店のオーナー視点で語られる。案内役に導かれ、順番が来た者から一人ずつ風天孔の中へ消えていくのだが、どうなるのか、どこへ行ってしまうのかは謎である。

「森の神、夢に還る」は、女性と、女性の中に棲む何者かの話で、女性の日常と中にいた者の数奇な運命が描かれる。表題作「金色の獣、彼方に向かう」は、図鑑にも載っていない動物を見つけた少年と少女の物語。その動物と関わる事で超常能力が備わってくる。何かを埋め続けている墓堀人の存在も不気味。

連作形式ではないものの、鼬っぽい謎の獣が出てくるので、何らかの繋がりがありそうな気もして来る。超常的な何かに関わる事となる人物と、それを聞かされる人物が登場する事によって、物語に深みが与えられている。視点を少しズラす手法が上手いと思う。


にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

竜が最後に帰る場所

竜が最後に帰る場所竜が最後に帰る場所
(2010/09/17)
恒川 光太郎

商品詳細を見る

恒川光太郎が五つの物語で世界を変える―。風を、迷いを、闇夜を、鳥を。著者はわずか五編の物語で、世界の全部を解放してしまった――。静謐な筆致で描かれた短編は、小説の新たな可能性を切り拓く!


またしてもハイレベルな新作。長編じゃなくて五つの短編だった。

「風を放つ」は、風のような何かを封じ込めた物を持っているという女性から話を聞く大学生が主人公なのだが、電話で喋るだけで、実際にその現物を見ないまま中途半端に途切れるので物足りない。少し不思議なだけで終わってしまった。

「迷走のオルネラ」は、父を轢き殺されて母子家庭になっていた少年が、キチガイに母まで殺されてしまい、成長してからキチガイを使って何かを成す物語。たんに復讐するだけならありがちだけど、思いもよらぬ方法でキチガイを別の存在に変える。キチガイには娘がおり、彼女がマンガ家として作り出したものが表題作となり、物語と作中内マンガの内容が上手く絡み合う。

「夜行の冬」は、従来の恒川作品らしさが一番出ている感じ。夜行様が通る日は外に出てはいけないと言われていた男が、外に出てしまい、夜行の列に加わってしまう。目的地も明かされぬまま、何処か別の場所へと旅するのだが、これは現状に不満で、別の自分になりたい人には堪らない。非常に上手く出来た●●世界物だった。ネタばれすると面白くないので伏字でしか書けないけど。

「鸚鵡幻想曲」は、擬態している別の何かを見抜いて元の姿に戻してしまう能力を持つ男と出合った主人公の物語。自分が、それと気づかないまま、別の何かとして生きているとう設定までならありがちだけど、この物語は正体バレしてからが本番。南へと旅立った主人公が、ある事件に巻き込まれた女性に救いの手を差し伸べる。

表題作が無いと思ったら、これがそうだった。「ゴロンド」は主人公の名前だが、人間ではなく、正体不明の何かである。激しい生存競争に勝つうち、成長して変形して行き、本来の姿となるのだが、竜が今いる場所、帰っていく場所、そして竜がその世界からいなくなった理由が幻想的で素晴らしい。


にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

南の子供が夜いくところ

南の子供が夜いくところ南の子供が夜いくところ
(2010/02/27)
恒川 光太郎

商品詳細を見る

島に一本しかない紫焔樹。森の奥の聖域に入ることを許されたユナは、かつて〈果樹の巫女〉と呼ばれた少女だった……。呪術的な南洋の島の世界を、自由な語りで高らかに飛翔する、新たな神話的物語の誕生!


恒川光太郎、またしても安定していてレベルが高い。今のところハズレ作品無しなので、安心して手に取れる。

今までのようなホラーっぽさが少なくなり、ファンタジー要素が増えた。脱サラに失敗し、無理心中寸前の家族が、怪しい女性の手引きで南の島へ。少年は親と離され、異国の島で過ごす事になる。普通の人間とは異なるユナと名乗る女性は、若く見えるがすでに120歳らしい。

最初は少年の話だったのだが、連作っぽく繋がっていて、ユナが人間を超えてしまういきさつや、三百年以上も前の侵略の話、近海を荒らしまわっていた海賊の話など、時系列がバラバラで少しずつリンクする物語が七編続く。


にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ



最後の「夜の果樹園」が異次元すぎて一番面白かった。
以下、ネタバレ。

続きを読む »

草祭

草祭草祭
(2008/11)
恒川 光太郎

商品詳細を見る

団地の奥から用水路をたどると、そこは見たこともない野原だった。「美奥」の町のどこかでは、異界への扉がひっそりと開く―。消えたクラスメイトを探す雄也、衝撃的な過去から逃げる加奈江…異界に触れた人びとの記憶に、奇蹟の物語が刻まれる。圧倒的なファンタジー性で魅了する鬼才、恒川光太郎の最高到達点。


今回も不思議な物語が五編でハイレベル。短編なのだが、物語の舞台や設定、登場人物が少しずつ繋がっている。時系列は順番ではないので、全部読まないと全ての繋がりが見えてこない。美奥という妖しい場所に魅入られる。

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

秋の牢獄

秋の牢獄秋の牢獄
(2007/11)
恒川 光太郎

商品詳細を見る

十一月七日、水曜日。女子大生の藍(あい)は、秋のその一日を、何度も繰り返している。毎日同じ講義、毎日同じ会話をする友人。朝になれば全てがリセットされ、再び十一月七日が始まる。彼女は何のために十一月七日を繰り返しているのか。この繰り返しの日々に終わりは訪れるのだろうか――。 まるで童話のようなモチーフと、透明感あふれる精緻な文体。心地良さに導かれて読み進んでいくと、思いもかけない物語の激流に巻き込まれ、気付いた時には一人取り残されている――。


長編ではなく、短編が三つ入っている。表題作は、同じ一日に閉じ込められてしまった女性の物語。ケン・グリムウッドの「リプレイ」みたいに、同じ人生が繰り返されるのだが、期間がより限定されていて、たった一日となっている。何かをしても、それは翌日には持ち越されない。次の“同じ日”に持っていけるのは記憶だけ。

何度目覚めても翌日へは行けない。閉鎖された時間に囚われていない人々は、全く同じ事を繰り返すのだが、ある日、本来はその場所にはいないはずの人物に出会う。自分と同じ人間に出会い、独りではなくなった彼女は、一日に囚われた人々の集会に参加するようになる。

しかし、閉鎖された一日の無限ループから消えてしまう者もいて、それは北風伯爵と呼ばれる異形の存在の仕業とされていた。北風伯爵に捕まると食べられて消滅してしまうのか? それとも、翌日へ行けるのか?

日本各地の固定された場所に出現と消滅を繰り返し、家守となった者は外に出られなくなる「神家没落」、幻術を使う老婆の後継者となってしまうが、金儲けを目論む悪人に拉致監禁されてしまう女性の「幻は夜に成長する」も面白い。それにしても、何かに捕まってしまう話ばかりだね。

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

雷の季節の終わりに

雷の季節の終わりに雷の季節の終わりに
(2006/11)
恒川 光太郎

商品詳細を見る

現世から隠れて存在する小さな町・穏で暮らす少年・賢也。彼にはかつて一緒に暮らしていた姉がいた。しかし、姉はある年の雷の季節に行方不明になってしまう。姉の失踪と同時に、賢也は「風わいわい」という物の怪に取り憑かれる。風わいわいは姉を失った賢也を励ましてくれたが、穏では「風わいわい憑き」は忌み嫌われるため、賢也はその存在を隠し続けていた。賢也の穏での生活は、突然に断ち切られる。ある秘密を知ってしまった賢也は、穏を追われる羽目になったのだ。風わいわいと共に穏を出た賢也を待ち受けていたものは―?透明感あふれる筆致と、読者の魂をつかむ圧倒的な描写力。『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞した恒川光太郎、待望の受賞第一作。


第20回山本周五郎賞候補作。

前作よりも、さらに力強くて魅力的。「夜市」も悪くは無いけど、短いから物足りなかった。今回は、かくれ里のように怪しげな「穏」と呼ばれる場所が舞台。下界と呼ばれる現世からは隔絶された場所で、そこには雷の季節が存在するのだ。そして、雷の季節には鬼にさらわれて人が消える。少年の姉も雷の季節に消息を絶ち、同時に風わいわいという憑き物に囚われる。何かが自分に憑依している事を隠して生活する少年は、穏の外れにある墓町へ出入りするようになり、闇番と共に、行方不明となった少女の亡霊に出会ってしまう。連続殺人事件に巻き込まれた少年は、鬼衆に処刑される前に逃亡するのだが……。

後半は別パート。下界で邪悪な継母に殺されそうになった少女は、より邪悪な男の手にかかり、自分達が暮らす世界から隔絶された場所にさらわれて殺される寸前、風霊鳥の助けで逃げ延びる。

前半と後半で一見バラバラの物語が、最後で見事に融合する。時系列も異なるのだが、上手くラストまで繋がっていく。二作目にして、ここまでの技を出してくるのは素晴らしい。

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

夜市

夜市夜市
(2005/10/26)
恒川 光太郎

商品詳細を見る

大学生のいずみは、高校時代の同級生・裕司から「夜市にいかないか」と誘われた。裕司に連れられて出かけた岬の森では、妖怪たちがさまざまな品物を売る、この世ならぬ不思議な市場が開かれていた。夜市では望むものが何でも手に入る。小学生のころに夜市に迷い込んだ裕司は、自分の幼い弟と引き換えに「野球の才能」を買ったのだという。野球部のヒーローとして成長し、甲子園にも出場した裕司だが、弟を売ったことにずっと罪悪感を抱いていた。そして今夜、弟を買い戻すために夜市を訪れたというのだが―。第12回日本ホラー小説大賞受賞作。


第134回直木賞候補作。
第12回日本ホラー小説大賞受賞作。

大学生になったいずみが、高校時代に同級生だった裕司に誘われて、夜市と呼ばれる場所に行ってしまう。夜市が開催される事は、学校蝙蝠から聞いたらしい。

夜市では、訳の分からないものがたくさん売られていた。永久放浪者は、黄泉の河原で拾った石を1億円で売っていたが、ただの石ころにしか見えない。一つ目ゴリラが売っている、岩に刺さった何でも斬れる剣は10万円だが、抜けなかったら石ごと買わなければならないので、15億円になる。

急速に老化する薬、老化を遅くする薬、不死の妖婦が閉じ込められた箱磔など、売っているのは怪しい物ばかりである。いずみは帰ろうとするのだが、夜市から出る事が出来ない。何処まで歩いても、夜市の中なのだ。夜市に入ると、何か取引をするまでは戻れないと教えられる。

裕司は子供の頃に、弟と一緒に夜市に迷い込んだ事があるのだが、その時は野球選手の器が欲しくなった。何か取引しないと出られないので、裕司は人攫いに弟を売ったらしい。嫌がる弟を自分が無理やり連れて行ったのに、人攫いに売るなんてクズである。

野球選手の器で、甲子園に行ける位には上手くなったのだが、元の能力を上昇させるだけなので、限界が見えて来る。甲子園レベルでは普通であり、プロになっても活躍出来るかどうかは怪しい。何より、子供の頃に好きだった女の子が野球の上手な男子が好きだという不純な動機で得た能力であるし、その代償として弟を失ったのだから。

何でも斬れる剣でヤクザの一つ目ゴリラに騙されそうだったところをアドバイスしてくれたおじさんが、裕司の買い物に付き合ってくれるのだが、買いたいのは弟だった。人攫いのところへ行くが、どれが弟なのか分からない。人攫いが弟だと差し出す子を買おうとするのだが……。


「風の古道」は、父に連れられ小金井公園まで桜を見に行った七歳の子供が、おかしな道に迷い込んでしまう話。途中でおばさんと出会い、帰り道を教えてもらうのだが、夜になるとお化けが出るから、寄り道しないで真っすぐ帰れと言われる。お礼を言おうとした時には、もうおばさんはいなくなっていた。

必死で歩き続け、見た事のある風景のところで道から外れると、家に戻る事が出来た。迷子になった息子が歩いて戻ってきた事に、親は驚いたが、遊歩道を通ってきたのだと納得する。翌年、少年は自転車を買ってもらい、多摩湖自転車道と呼ばれている場所に連れて行って貰ったが、そこは自分が歩いて来たあの道ではなかった。

不思議な道の事は誰にも話してはいけないと思い、ずっと秘密にしてきたのだが、12歳になった時、友人のカズキに教えてしまう。カズキは面白がり、行ってみようと言い出す。自分が戻ってきた場所から入ると、やはりその古道は存在していた。

二人で歩いて行くと、昼間なのに人ではない何かとすれ違う。やがて、一軒の茶屋が見えて来た。他の家が、この古道側を向いている事はないのに、茶屋だけは違った。茶屋で小金井公園への生き方を訊ねるが、公園はもう通りすぎているし、桜の季節にしか出入り口が開かないと言われる。

この古道は何年も修行を重ねた坊さんや、特殊な血筋の者しか通ってはいけない場所だったらしい。決まった出入り口しか使えないので、茶屋の客だったレンという青年が、翌日案内してくれる事になった。茶屋に一泊して、レンの牛車に乗るのだが、運悪く、レンの敵が向こうからやってきて、拳銃を撃って来る。その男はレンに殺されたが、見るとカズキが撃たれていた。

カズキを連れて出口へ向かうが、外には出られなかった。死んだ者は、古道の持ち物となり、外には出られないのだ。自分一人だけなら出られたのだが、カズキを連れ出す事は出来ない。古道を通って行ける場所には、蘇生の秘儀を伝えているところもある。雨の寺まで運べば、生き返るかもしれないとレンに教えられる。

死んでしまったカズキを運んでいく間に、レンの人生が語られる。母親が古道で産んだため、レンは古道に所属するものとなり、人間の世界には出られない。母親と別れてからは、人間の世界と古道を出入りして商売する男の荷物番として雇われるのだが、やがて男の願いは叶って居なくなる。レンは、男から譲り受けた古道に関する知識を活かして、生きて行く事になる。

ある時、母親の事が噂話として耳に入り、レンは自分が何者なのか知ってしまった。やがて、因縁のある人物が客として道案内を頼んでくる。かつて、レンがまだレンではなかった頃に、レンを殺した男だった。相手には逃げられてしまうのだが、咄嗟の事で、大事な荷物は置いて行ったままだった。

そいつが、運悪く古道で出会い、レンを襲ってきて、カズキを殺してしまった男だった。男が置いて行った1000万円があれば、雨の寺でカズキを生き返らせる事が出来るだろう。そう思っていたのだが、古道で再生した者は、もはや人間の世界のものではないから、外には出られないと告げられる。

古道で蘇った者は、永久放浪者となるらしい。夜市でも永久放浪者が出て来て、何者か謎だったのだが、そういう人々の事を言うのか。雨の寺に辿り着く事は出来だが、お金と再生させるための健康な体、そして育てる者が必要だと言われる。まさか自分が身代わりとして死ぬわけにはいかない。カズキは永久放浪者にすらなる事が出来なかった。

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ