ミルクの歴史

4562050616ミルクの歴史 (「食」の図書館)
ハンナ・ヴェルテン 堤 理華
原書房 2014-05-20

by G-Tools

おいしいミルクには実は波瀾万丈の歴史があった。古代の搾乳法から美と健康の妙薬と珍重された時代、危険な「毒」と化したミルク産業誕生期の負の歴史、今日の隆盛まで、人間とミルクの営みをグローバルに描く。料理とワインについての良書を選定するアンドレ・シモン賞特別賞を受賞した人気シリーズ。


動物のミルクは最も賛否両論のある食物であり、「白い毒」と敵視されたり、「白い妙薬」とあがめられたりした。動物が食べた牧草の成分は、薬効のあるものも毒性のものも、ミルクにも混ざる。19世紀初頭には、アメリカ中西部で、マルバフジバカマを食べた家畜のミルクを飲んだため、何千人もの人々が死亡した。

ミルクには水のように寄生虫が潜んでいたりしなかったので、重要な栄養源となった。次第に、ミルクがよく取れる動物が選ばれるようになった。豚は不潔だと看做されただけでなく、搾乳も大変だったので、これで商売をするのは無理だったに違いない。牛が選ばれるようになったのは、一度の搾乳でミルクをたっぷり出すからである。

赤子ではなくなってもミルクを飲む動物は人間だけだが、人間でも6歳を過ぎると乳糖(ラクトース)を分解する酵素ラクターゼが激減する。ミルクを飲み続ける文化圏の人々は、遺伝的に乳糖耐性がある。牛乳が飲めない人でも、チーズやバターに加工すると食べる事が出来るのは、乳糖が分解されるからである。

ミルクの状態では運ぶ間に腐ってしまうため、地産地消が基本であった。冬になると家畜はミルクを出さなくなったので、予めチーズなどに加工しておく必要もあった。ローマ帝国を始め、中世あたりまでは上流階級がミルクを蛮族の飲み物、貧乏人の飲み物として敬遠したり、馬鹿にしている傾向があるが、これは鮮度の問題で、産地から支配階級が住む都市部に運ぶまでに悪くなったからじゃないのかな?

貧乏人の飲み物と看做す者がいる一方、若さを保つためにクレオパトラや暴君ネロの妻ポッパエアなど、ミルクを利用している支配階級も存在するのが面白い。イメージ画像として、映画『暴君ネロ』の乳風呂を楽しむポッパエア(クローデット・コルベール)が掲載されているのだが、美しくて素晴らしい。(*´Д`)

これは乳風呂に入ったから美しくなったのではなくて、美しい人が乳風呂に入っているだけなんだからねっ! 真似しても、美しくはならないんだからねっ!

次第に、ミルクは特別な飲み物であるとの認識が高まって来るのだが、アルジェリア反仏運動の指導者アブド・アルカーディルによれば、ラクダの乳にはスピードを与える作用があり、十分な期間、ラクダの乳を飲んで過ごすと、馬くらい速く走る事が出来るようになるらしい。いくらなんでも魔法薬ではないのだから、さすがにこれは言い過ぎである。

近代に入ると都市化が進み、ミルクを売るためのネットワークが整備されるが、現代のように衛生的でもないし、鮮度を保つための技術も無かったので、悲劇をもたらす。病原体に汚染されたミルクが疾病率や死亡率の主因となり、「白い毒薬」と看做されるようになってしまう。

都市部では、ビール醸造や蒸留酒製造の際にでるカスで牛を飼育したため、牛が病気になるばかりか、ウイスキー味のミルクになってしまったりした。味を誤魔化したり水増しするために汚染水が混ぜられて、さらに酷い事になった。

都市部の牛乳が恐ろしい事になっているので、田舎からの輸送が始まったが、ゴミやほこりが入り放題だったし、冷蔵設備もない時代だから、病原菌が繁殖するには十分な時間だった。1899年にセントパンクラス駅で検査した際には、異常のないものが32%しかなかった。6%は汚染されており、16%が微生物過多、12%に白血球過多(牛が感染症にかかっている)、24%に膿の痕跡、10%に牛型結核菌(牛乳を介して人にも感染する)が認められた。牛乳を飲んだら結核になるなんて、命懸けじゃないか。こんなの飲んでられないよね。

牛乳の腐敗を止めるためにホウ酸やホルマリンが混ぜられたりしているし、まさに「白い毒薬」以外の何物でもない。文末化する事で、病原菌の汚染は食い止められたが、特定の栄養が足りていないために赤子が病気になったり、混ぜる水が汚染水だったりしたので、問題は山積みであった。人間の赤ちゃんは牛乳じゃなくて母乳で育てろよ! と、ツッコミを入れたいが。

我々は汚染されて不潔で危険な牛乳、所謂「ミルク問題」を解決する必要に迫られる。1800年代の終りになってもまだ、牛乳は安全ではなかった。低温殺菌が有効であったが、これには酪農家が抵抗勢力となって反対した。都市部では余計な混ぜ物をしているし、産地でも金儲け優先で抵抗するという……。特にアングロサクソン支配地域で、こういう「金が命より重い」風潮があるよね。アングロサクソン型資本主義の影響を受けている、何処かの島国も「金が命より重い」国になってしまったが。

1930年代になっても、牛結核由来の感染は無くならず、牛乳を飲んだために2000人の乳児が死亡したらしい。水や牛乳よりもビールのほうが安全な世界って嫌だよね。長い間、牛乳が危険な飲み物であり続けたため、不信感を払拭するのは大変だった。人気モデルや運動選手を起用して、ミルク髭(牛乳を飲んだ直後に口の上についている状態)のポスターを張ったりしている。

ミルクが白い毒薬なのか、妙薬なのかは、未だに議論となるが、個人的には乳糖耐性が無いらしいから、飲まないので関係無いや。本書に書かれてある事ではないけど、乳糖耐性の無い人が飲むとガラクトースが水晶体に溜まり、白内障を起こす例があると報告されているのも怖い。


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