異世界居酒屋「のぶ」

4800260000異世界居酒屋「のぶ」 (宝島社文庫)
蝉川 夏哉
宝島社 2016-08-04

by G-Tools

異世界に繋がった居酒屋「のぶ」を訪れるのは、怠け者の衛兵たち、お忍びの聖職者、水運ギルドのマスターなど個性的な面々ばかり。彼らは、寡黙な店主、ノブ・タイショーが振る舞う驚くほど美味い酒や、未体験の料理に驚き、舌鼓を打ちながら、つかの間、日々のわずらわしさを忘れるのだ。この居酒屋の噂は客から客へと広がり、連日様々なお客がやってくる。さて今夜、居酒屋「のぶ」にはどんなお客が訪れ、どんな物語が紡がれるのか…。暖簾をくぐれば異世界が広がる…なろうコン大賞受賞の異色作!


居酒屋ごと異世界に行ってしまう話。但し、行きっぱなしではなくて、裏口は日本に繋がっている。どうやら、この居酒屋は日本と異世界に、同時に存在している形になっているらしい。日本にある仮店舗のほうが消えてしまったら事件になるからね。

異世界では、ドイツ風の帝国(領邦や司教領がたくさんあるらしいので、神聖ローマ帝国がモデルではなかろうか)の直轄領、古都アイテーリアの通りに収まっている。いきなり建物だけ古都の区画に出現して嵌り込んで騒動にならないのかと思ってしまうが、その辺は、異世界に繋げた神が上手くやったのであろう。

普通の料理物というより、異世界人が知らない料理を食べてカルチャー・ショックを受けるタイプの作品になっている。一話完結型で短編が繋がって行くので、隙間時間に読めるのが良い。

居酒屋の主は矢澤信之という青年で、老舗料亭で修業をしていたが、独立して居酒屋を始めた。のぶの看板娘は千家しのぶというお嬢様で、老舗料亭の娘だったが、店の再建のために銀行の副頭取の息子との結婚を強要されて家出した。

タイショー(矢澤信之)は、念願の店を持ったが、表側が異世界と繋がってしまったため、日本ではないところで影響しなくてはならなくなる。最初は大変だったようだが、冒頭ではすでに常連客がつき始めている。

古都で衛兵をしているハンスは、良い店を見つけたというニコラウスの案内で、居酒屋のぶにやってくる。その店は、入口がガラス戸で出来ているので、ハンスは金の支払いを心配する。どうやら、この世界ではガラスが高級品らしい。初めて飲んだトリアエズナマというエールは、今まで自分が飲んできたものが牛の小便だと思えるほど、別次元の味だった。

ハンスに連れられて、中隊長のベルトホルトがやってくる。ベルトホルトは鶏肉を注文する。古都では老いて硬くなった鶏肉しか出回らないのだが、居酒屋のぶでは若鶏の唐揚げが出て来た。賄い用のチキン南蛮は食べさせてもらえなかったので、翌日の仕事が終わると、居酒屋のぶまで走って行く事になる。

来るのは良い客ばかりではない。羽振りの良さそうな新店舗に目をつけたのは徴税請負人のゲーアノートだった。税を多く取るほど、差額で潤う職業なので、居酒屋のぶを狙っていたのだが、タイショーが買い出しから戻らない間に、シノブが用意した賄い用のスパゲッテシ・ナポリタンを食べて宇宙を見てしまう。ゲーアノートは徴税せずに、常連客となってしまう。

貴族のお嬢様ヒルデガルドが婚姻前に連れられてきて、「臭くなくて辛くなくて酸っぱくなくて苦くなくて固くなくてパンでも芋でもお粥でも卵でもシチューでもない美味しいものが食べたい」という難題を出すが、タイショーは餡かけ湯豆腐を出す。

イグナーツが、妹と結婚する予定のカミルと一緒にやってくる。古都は内陸にあるので、新鮮な魚は出回らない。魚を生のままで食べるのは勇気がいる行為だったが、居酒屋のぶの刺身や海鮮丼は新鮮だった。

ある日、しのぶが開けた覚えもないのに、表側のカギが開いていた。中に侵入者がいるかもしれないと思い、常連客に衛兵を呼んで来てもらう。コミカライズでは、肉屋のフランクに頼んだよね。フランクが常連なのだろうか。

中にいたのは、エーファという小さな女の子だった。水道の蛇口が欲しくなって、店の中に入ったらしい。蛇口だけ盗んでも水は出ないことを説明し、このままではエーファが泥棒として裁かれるので、皿洗いとして雇う事に決めてしまう。店主はタイショーなのに、勝手に決めて良いのだろうか? バイト料は日本円じゃなくて、異世界の貨幣だから、人件費としてはかなり安そうだけど。

ニコラウスが助祭エトヴィンと一緒にやってくるが、すでに問題は解決していたので、エーファはお咎め無しとなる。衛兵達が、堅物そうな助祭が古都に来たと心配していたが、エトヴィンもいつの間にか居酒屋のぶの常連になっていたので、全く問題無かった。

ある日、貴族の部下がやってきて、店を貸し切りにしろと言い出すが、断ったところ、店の前が某世紀末みたいな事になり、客が入れなくなる。実質上、貸し切り状態になってしまった居酒屋のぶにやって来たのは、古都の近くに領地を持つブランターノ男爵だった。

ブランターノ男爵は、とある貴族の結婚披露宴で年若い花嫁が挙げた餡かけ湯豆腐というものを食べたいと言い出す。寒い季節でないと美味しく食べる事が出来ないと断ると、シュニッツェルを作れと言い出す。

タイショーがシュニッツェルについて調べに行っている間に、しのぶが食べようとした賄いのサンドイッチを気に入り、もっと食べたいというのでカツサンドを出すと、満足して金貨の入った袋を置いて帰ってしまった。嫌な客だと思ったけど、金貨を袋ごとくれるなんて、素晴らしいじゃないか。

徴税請負人のゲーアノートが絶賛する店だと聞いて、鍛冶ギルドのホルガー親方がやって来る。そこへ、衛兵をしている息子から店の話を聞いた硝子職人のローレンツが入って来た。この2人は仲良く喧嘩する間柄のようであるが、だんだん口コミで客が増えてきたよね。

中隊長ベルトホルトは、戦場でイカの兜をしている戦士に怯んで怪我をしたほど、イカが苦手である。居酒屋のぶのイカ尽くしで無理やり食べさせられるのだが、結婚相手の親がイカ漁師なので、絶対に克服しなければいけないのだった。イカが巨大なものと勘違いして苦手になっていたベルトホルトだったが、後日、お見合いで相手の親が釣ってきたクラーケンを食べさせられる事になるとは知らない。

ある日、居酒屋のぶに怪しい美女が来た。ナッツ類ばかり食べていて、酒を飲まないのだ。客達はいろいろと詮索するのだが、エーファ以外は正体を見抜く事が出来なかった。なんと、美女の正体は男で、以前も来たことがある商人のイグナーツだった。どうやら、義弟のカミルと女装がバレるかどうか賭けをしていたらしい。

東王国の密偵ジャン=フランソワ・モーント・ド・ラ・ヴィニーが居酒屋のぶにやって来る。帝国について調べられている情報を覆すような料理ばかり出て来るので、ジャンは仰天してしまう。サラダにはタラの卵が混ざったソースがかかってピンクになっているし、ポテトには高級品であるはずのペッパーがかけられる。そして、今まで食べた事のないカルパッチョは、鯨の尾の身だった。今まで密偵をしてきて、鯨を獲る方法など聞いた事もなかった。

タイショーが買い出しに、しのぶが古都の散歩に出かけたので、エーファは一人で留守番と店の掃除をしていた。ふと見ると、神棚に供えられた油揚げを咥えたキツネが出て行こうとしていたので、慌てて追いかけてしまう。

裏口から出ると、見た事も無い巨大な建物や、馬のいない馬車が通る場所だった。古都の祭りの日よりも歩いている人が多かった。エーファは警察に保護されそうになり、人攫いだと思って慌てて逃げ出すが、迷子になったので戻れなくなってしまう。こちら側の神の御使いによって、戻してもらえるが、神棚に供えるものに、稲荷寿司が加わった。

居酒屋のぶの店内で、水運ギルドの会合が開かれ、いろいろと揉めていた。古都に3つあるギルドの諍いを解決する鍵は、生臭くて人気の無いウナギだった。古都ではウナギの人気が無いので安く買えるのだが、タイショーが料理したウナギの蒲焼きが評判になる。

ベルトホルト中隊長が、新妻のヘルミーナを連れてやってくる。新居の住人が引っ越すために手配していた馬車を、東王国の僧侶が破格の値段で借り受けたために予定がズレ、ベルトホルトも入居出来なくなってしまったのである。意外なところで居酒屋のぶが絡んでいるのだが、誰も気が付かない。

衛兵の寮に新婚用の荷物を突っ込んで、夜は宿屋に泊るらしいのだが、昼間はヘルミーナの居場所が無くて困っているらしい。ウナギの蒲焼きで忙しいので、ヘルミーナも居酒屋のぶを手伝う事になる。

古都にはバッケスホーフ商会という腹黒い大手商人がいるのだが、居酒屋のぶとトリアエズナマを狙ってちょっかいをかけてくる。トリアエズナマが帝国で禁止されているラガーではないかと疑われるのだが、相手方についたと思われたゲーアノートも居酒屋のぶの味方だったので、最終的にバッケスホーフのほうが自滅してしまう。

ヒルデガルドを連れて来たヨハン=グスタフが、今度は老人を連れて来る。ヨハン=グスタフが、老人にトリアエズナマを飲ませるよう頼むのだが、その結果、ラガー流通禁止令の勅令が撤回される事になる。そして、料理を運んできたエーファが転んだことにヒントを得た老人は、北部の三領邦離脱問題も解決してしまう。どうやら、訪れたのか帝国の先代皇帝だったらしい。

エーファが転んだ時に、ハンカチをくれたのだが、後日それを見たゲーアノートは、先代皇帝にしか許されない三頭竜に鷹の爪の紋章が描かれているのに気づいてしまう。先代皇帝と関わりのあるような恐ろしい店からは、絶対に無理な徴税は出来ないと思うのだった。


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